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これからのライターにできること - ことばの風景と要望を調製する

ライターズドキュメント

ライターにもいろいろありますが、「これからのライター」という時流的な話をするとすれば、私は「ことばの風景と要望を調製するライター」がひろく重宝されると思います。

ことばで印象をつくる

「印象」について考えるとき、お店の内装にこだわったり、パッケージの意匠を徹底したり、ファーストビューを極めたり、スタイリング面についてはわかりやすいです。一方で、「名前」でもって印象をチューニングすることについてはまだまだ評価されていないぶぶんがあります。

ここでいう「名前」というのは、ネーミングも含むし、ボディコピーも含みます。おおきく「ことばで印象をつくること」だと思っていただければさいわいです。

たとえば、私の好きなインクに「女神スーパーブラック」という特色があります。黒の特色なのですが、インクについてほぼなにも知らないひとが聞いても黒そうですよね。「スーパーブラック」だけでもけっこう黒そうですが、「女神」ですから。いじってるわけではなくて、女神スーパーブラックって言われたら、自然とあたまが下がり、腰も低くなって謙虚になれます。女神スーパーブラックが本文に使用されている本なら、650円ぐらい高くてもいいです。そういう気分になります。

おそらくみなさんにも、そういう「ことば」由来の印象があると思います。

「ワンドリンク」みたいな言いかた

もうひとつ例示ですが、カラオケ、ライブハウス(飲食店系)、コンカフェに行くと「ワンドリンク制になっております」と躾られます。

この「ワンドリンク制」という名前はわかりやすく、システマチックに響きながら場の空気や気分を損なわない透明性も感じられます。だれの発明か存じませんが、飲み物を強制的に一杯だけ買ってもらうのに便利なワードです。

これが通販になると「最低購入本数」のような、契約ライクな表現になります。漢字が六つも続いているのが最大の原因で、ECサイトではなく取り調べ室かと勘違いしてしまいそうです。

もしそこに「ことばの風景と要望を調製するライター」がいれば、ワンドリンクのような言いかたで、そのサイトに適したことばを編み出してくれたことでしょう。そのサイトにはどういうバックグラウンドがあって、どういうコンセプトがあって、お客さんにはどういう風景が見えているのか。それらを尊重したうえで、お店のほうにもお客さんのほうにも向いて、もっとも適したことばをつくったにちがいありません。

「名辞以前」と「名辞以後」のあわいで

この命名スキル自体はライターでなくても獲得可能ですが、仕事のなかでことばや感情と向き合い続けることになるので、いまのところ(ことばや感情と向き合うことを職業的に自己使命化している)ライターにしかできません。

具体的には、まず名辞以前の風景を探します。こどものころの、寒空の下で、まだ「寒い」ということばを知らず、必死に口をガクガクさせたり、縮こまったり、環境に怯えたりしていたころのように。あるいは、「静寂」や「しじま」ということばを知る前に見た、夜と月とじぶんだけがただ闇のなかで時間を共有していたころのように。

どんなものにも、ことばになる前のオリジナルの風景があります。言うは易しですが、まずそれをとらえます。詩的な状態として。ちなみに「ラゴングラネ」の原風景は「大海を遠望する井の中の蛙を肯定したい気持ち」です。

風景をとらえた状態はクリエイティブで詩的ですが、詩的であるがゆえにわかりにくいです。詩的な創作業ならいいかもしれないけれど、ライター業としては素材にすぎませんね。ここから「要望」を受けて、成果物に仕上げていきます。

ラゴングラネなら、「大海を遠望する井の中の蛙を肯定したい気持ち」をベースにして、なおかつ「商標登録できそうな造語」で、「意味が前に出すぎないような字面」で、「アルファベットにしてもごちゃごちゃしない」で、「ラという字(音)がある」、「濁音がある」、「社会的意義を込める」、「できるだけ弱い側に立つ」、「アートをもじってくる」(『落ち穂拾い』)のような要望がありました。

「ことば以前の風景」と「次から次へと出てくる要望」のあいだで最適なことばを考えます。ひねって、つねって、破って、練って、被って、盛って、減らして、バグって、戻して、直して、仕上げるわけです。私の場合は、トイレか銭湯か公園でことばが出てきます。

UXライティングというジャンルに回収される

この話については、おそらく「UXライティング」というライティングジャンルに回収されると思います。というか、私自身がそういうふうに現場で言っているだけなのですが。

UXというのは、ユーザエクスペリエンスのことで、ユーザーの体験のことです。ミクロなところで言えば、「続きを読む」なのか、「クリックして記事に進む」なのか、「MORE」なのか、うちで言えば「Would you read more?」なのか。そのサービスやそのサイトにおいて、どういう文言がボタンに添えてあったらベターなのかを探るライティング分野です。

余談ですが、このあいだ、居酒屋さんの店頭に手書きで「中へGO!!!」というポップが書いてあって、まったく用がないのに入りそうになりました。ものすごい吸引力のある字体で、メッセージは単刀直入で、「どこ行くか迷ってるならウチに来なよ!」みたいなフランク感があって、歓迎されているような気分になって入りそうになりました。

こういった、お客さんのほうを向いて、どんなことばがどんな体験につながるのか考えて、実際にことばを組んだり置いたり用意したりするジャンルに回収されていくことでしょう。

練習に最適なのは「通訳・翻訳」

おすすめの練習方法は「通訳」と「翻訳」です。むずかしいニュースを若い子がわかるように言い直したり、どこかの会社の企業理念をシンプルに落とし込んだり、込み入った議論が続く哲学書のレジュメをつくったり。あとは仕事で英語翻訳をよくやっているので、それもスキルにつながっています。どんな練習においても、原文の背景を尊重するのを忘れずに。

もうひとつ「要望」をクリアする練習もしたいところですよね。これは実際にだれかから依頼してもらうのが早いのですが、それが叶わないときは「縛り」をやってみるのがおすすめです。なんでもいいのですが、たとえば好きな歌詞を「カ行無し縛り」で翻訳してみるとか。もちろん原文や原文の背景にあるものをできる限り重んじながら損なわないようにして、カ行を使わずにおなじことが言えるかどうか。そういった、いわゆる「無茶振り」をこなしていくうちに、高い要望にくらいつけるようになります。

そして単純にビジネスにおいて「要望=面倒」ぐらいに思われているので、要望を受け入れてくれるひとは「面倒なことをやってくれる」というポジションでユニークになっていきます(もちろんその分のお金をとらないと都合いいだけになるので要注意ですが)。

話が長くなりましたが、「これからのライターにできること」というテーマで書いてみました。DiscordやTwitterでもっと深掘りした話をしたいです。

Written by Aisaka, Chihiro
Copyright LagonGlaner and Author