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続いてほしいしあわせがしっくりくるということ、身体性のない問題解決に走る私のむなしさ

「ソートリーダーシップ thought leadership」ということばがあって、企業や活動家などがちいさくない問題の解決に踏み出すときに、その軸となる考えを示し、まわりを導くことまで含意したことばです。

これまで多用されてきた「ビジョン」と明確にちがうのは、「ソート」であること。つまり、考えているという身体性がともなうことだと思います。ビジョンをばかにしたいわけではないのですが、ビジョンは口だけで済まされることがおおく、有責な感じ(「私がこの問題を終わらせてやるぜ!」感)があんまりしませんでした。

なぜ身体性がともなわないかと言えば、ビジョンに採用されやすい指標というのは「おおきい問題」のおさがりだからです。たとえば、いまのトレンドは「SDGs(持続可能な開発目標)」ですが、一番目の「貧困をなくそう」とか、五番目の「ジェンダー平等を実現しよう」とか、十二番目の「つくる責任、つかう責任」といったターゲットが並びます。企業は四半期ごとの説明会で「次のビジョンはSDGsを意識して〜」と株主に説明するわけです。

SDGsを意識することはひとまずすばらしいことだとして、ビジョンのピークはここです。「すばらしい」と祝福するところ、肯定するところ、合意するところ、この前向きな結びつきを生み出すところがビジョンの仕事です。おなじアーティストのことを知っているひととカラオケに行くとたのしい、みたいなものですね。

ビジョンとソートリーダーシップは、どちらもあってほしいです。みんなでおおきい問題を共有しつつ、リーダーには「考えて」いてほしいと思います。より微細に言えば、「続いてほしいしあわせ」についてたくさんのひとの意見を聞き、それを未来でどのように実現すれば「しっくりくる」のか考えていてほしいのです。

SDGsのなかに「貧困をなくそう」とあって、それがトップダウンになってしまって、問題解決が優先されて「おまえは貧困だから、おまえに金を与える」となってしまう世界ではないということです。貧困という定義に当てはまるかどうかも大事ですが、そのひと、そのひとたちにとって「続いてほしいしあわせ」ってなんなのか、ということを聞き知ったうえで、どういう未来になれば「しっくりくる」のか想像してもらいたいと願っています。

私のこの考えは、スティーブ・デ・シャザーという20世紀の心理療法士が考えた「宿題」にもとづいています。『Keys to Solution in Brief Therapy』(1985)という書籍から引用しますね。

Between now and the next time we meet, I would like you to observe, so that you can describe to me next time, what happens in your (family, life, marriage, relationship) that you want to continue to have happen.

(今からまた会うまでのあいだ、よーく見ておいてほしいことがあるんですね。説明できるようにしておいてもらいたいのは、あなたの家族や、生活や、夫婦関係や、だれかとのつながりのなかで起こっていることで、これからも起こり続けてほしいと思うことについてです。)

シャザーの問いかけは、私にとって「身体性」のど真ん中なんです。もちろん貧困という問題も大事で無視できませんが、まず私にとって大切なひとたち、私にとって大事な生活、私のまわりのひとたちとの関係、そのなかでこれからも続いてほしいことがあって、そのすべてをほんとうに愛おしいと思っていて、そこからじゃないとなんの話をしても口八丁手八丁になるじぶんがいます。

ここから始めないと、私は、貧困問題について、本で仕入れた知識を組み合わせてそれっぽいことを言うだけです。ジェンダー問題について、SNSで聞いたことをつなぎ合わせてそれらしいことを言うだけです。人や国の平等問題について、ニュースで知ったことを貼り合わせて一般論に肉付けするだけです。気候問題について、たまたま読んだ科学雑誌のトレンドをむずかしい顔で発表するだけです。入試の小論文でつちかったスキルで、意見のもっともらしさや字数は増やせますが、そこには現実のだれかの痛みをひとつも知らない文章しか並びません。

「アフリカの子供たち」のために募金をしたこともあります。だけど私は、そのアフリカの子供たちが「続いてほしいと思っているしあわせ」について知らないんですね。無知だなあというか、無力だなあというか、無関心だなあというか、むずかしいなあって思います。

お金だけ出して、クレジットカードの明細が「寄付」の痕跡で埋まっていく様子を見て、「応援」や「支援」をしている気になって、こういうお金のつかいかたがすばらしいんだとエシカルぶって、実はなにひとつ成し遂げていなかったりする私のむなしさは、私自身が私の身体性をすっぽかして「問題解決」に取り組んでしまうからなんでしょう。おおきな問題を突きつけられると、迂闊に問題解決を求めてしまう性急さをなんとかしたい。

ぐだぐだすぎてまとめもオチもないけれど、私の理想とするリーダー像というのがあるとすれば、迂闊に問題解決に走らないひと、他人の続いてほしいと思っているしあわせについて知ろうとするひと、それが未来でどうなっていたらしっくりくるのか想像できるひとでしょう。とんだ理想論をひけらかしてしまっているのは承知ですが、じぶん自身、それにすこしでもなれたらいいなという話でもありました。

Written by Aisaka, Chihiro
Copyright LagonGlaner and Author

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