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チャールズ・スペンス『「おいしさ」の錯覚 最新科学でわかった、美味の真実』-ラシュ・エフェ #2

食べること、お店に行くこと、お菓子を買うことが、ちょっぴり楽しくなりました

こんばんは、龍山香名です。

私は自分の味覚に自信がありません。味というのは好みの問題なので自信も何もないとは思うのですが、たとえばもし高級料理店に入ることがあったとして、そこで出される料理をおいしいと感じることができるのかについて自信がありません。お手頃価格のファミレスのメニューですでにかなりおいしいと感じているのに、これ以上の価格になって、一体どんな味が出てくるのでしょうか。そもそも店で客に出されている時点で、ある程度のおいしさは保証されているはずです。

とか言って実は何度か高級そうな料理をいただいたことはあるのですが、正直高級そうな空間にいることに対して緊張しすぎてろくに味について覚えていません。なんかおしゃれで、接客もものすごく丁寧だった記憶があります。高級そうな料理を楽しむためには高級そうな空間に居続けることに以前から慣れ親しんでおく必要があるのだなと悲しくなりました。店員さんに話しかけられただけで「来てしまってすいません……」という気持ちになってきます。心を落ち着けるために席に置かれた「本日のお料理」みたいな紙を必死に熟読しながら料理を待ちます。紙には知らない料理名や具材名が必ずあります。鯛(たしか鯛でした)の頭と尻尾の間に刺身がたくさん並べられている皿を見た衝撃はまだしばらく忘れそうにありません。テーブルマナーも合ってるのかわからないので近くのひとの動きを必死に真似します。恋愛指南みたいなのでデートは高級店一択みたいなのを見かけますけど、あれはきっと互いにお金持ちで、高級料理店に行っても緊張せず落ち着いて食事ができるカップルであることを前提にしているのでしょう。なんか悲しくなってきました。

アレルギーでもないのにお餅やそれに類するものが苦手なせいで、抹茶アイスは好きなのに和風パフェは基本的に白玉が標準装備なので頼めませんし、和食店に行ったときはデザートにお餅が出てきたらどうしようとびくびくしてしまいます。出てきたときはがんばって水とともにむりやり飲み込みますけど。でももちもち食感のパンは大丈夫です。もち米が苦手なのかもしれません。でもおかきは好きです。実はさっきまでおかきではなくせんべいと書いていたんですけど、急に不安になって調べたところ、せんべいはもち米ではなくうるち米を使っているそうです。うるち米はいわゆる白米です。ご家庭の米びつに入っている米です。あやうくもち米についてしゃべっているつもりが突然うるち米賛美になるところでした。

わさびが苦手だから寿司屋やそば屋に行くのもちょっと申し訳ないです。寿司もそばも好きなのに。「わさび抜いてください」は寿司屋にいるときの語尾です。そばを食べるときに最初にすることはわさびを遠ざけることです。ちなみに同じ薬味でも山椒や生姜やパクチーなんかはおいしいと感じます。なぜわさびだけが苦手なのでしょう。わかりません。

とにかく、「おいしい」かどうかを評価することについてあまり自信がありません。お餅も白玉もわさびも、みんなおいしそうに喜んで食べているので、きっとおいしいはずなのです。もはや目の前の料理がおいしいかどうかを自分が判定すること自体がおこがましいのではないかと思ってしまいます。

そして、なんとなく本屋を歩いているときにこの本を見かけました。ぶっちゃけ、自分が自信をもてない感覚が「錯覚」だなんて言われちゃったらちょっと元気が出てきませんか。そういう不純な動機からこの本を手に取りました。

他人との味覚のちがいについて、ちょうど本の中で紹介してくれていました。もちろん味の好みも関係してきますが、そもそも味の好み以前に、ひとによって感じることのできる味がかなり異なっているそうです。たとえばブロッコリーをいつまでも嫌っているひとは、他の大多数のひとが感じていないブロッコリーの苦味を感じていたりするそうです。私はブロッコリーが苦いというのがあまりわからないので、その苦味を感じることができない方の味覚の持ち主なのだと思います。ということは、もしかしたら、私は他のひとたちが感じていない味をお餅やわさびに対して感じているのかもしれません。実際のところはわかりませんが、それはともかく、そう思うことでちょっと気が楽になりました。別に、まわりのひとたちと「おいしい」を共有できないことがあってもおかしくはないのだと教えてくれました。もちろん、せっかく一緒に食べるのですし、できれば共有したいのですけど……

『「おいしさ」の錯覚 最新科学でわかった、美味の真実』は、私たちが何をもって「おいしい」と感じるのか、もっと「おいしい」と感じるにはどうしたらいいのかなどについて研究しているひとが書かれた本です。

著者は、ポテトチップスを噛むときに出るパリパリ音を強調した音を聞きながらポテトチップスを食べると実際よりもポテトチップスが新鮮でサクサクしていると感じるということを証明してイグ・ノーベル賞を受賞したひとです。私もちょっとしけたポテトチップスをサクサクのものとして体験してみたいです。ちなみにこれを「ソニックチップ」というそうです。もしかしてせんべいでもいけるんでしょうか。濡れせんべいで試してみようかな。でもさすがに濡れせんべいになると極端すぎて効果がなくなる気もしてきますね。

他にもいろいろ、何によっておいしさを感じるのかについて紹介されていました。たとえば使う食器とか、食べるときのシチュエーションとか、においとか、かけた手間とか。味覚以外のいろんな要素が混じりあって「おいしい」はできあがっているのだということを教えてくれました。そして、読み進めていくほど、味覚に自信がないのはむしろ自然なのではないかと、どんどん自信がわいてきました。「おいしい」は味だけでできてはいないのです。まあ、やっぱり味を評価することについてはあいかわらず自信はありませんけど。

この本によると、飛行機に乗っているときに飲むトマトジュースは地上で飲むトマトジュースよりおいしいらしいです。(理由は本の中に。)飛行機に乗ることはほとんどないのですが、次に飛行機に乗るときまでしっかり覚えておいて、絶対に飛行機の中でトマトジュースを飲もうと思います。

「おいしさ」について気になる方は、ぜひ一度手に取ってみてください。先ほどちょっと書いたにおいとか手間とかいったおいしさに影響する要因だけでなく、おいしい食事体験のために探究心を燃やすひとたちが考案した事例もたくさん紹介されています。もはや一種のアトラクションにしか見えないものもあります。

この本を読んで、ちょっとだけ、食べることが楽しくなりました。お店で使われている食器や音楽や家具などはもちろん、お菓子を買って家で食べるときも、「もしかしてこういうところを工夫していたりするのかな」と想像をふくらませるようになりました。たとえば袋を開けるときのバリバリした音も計算されたものなのかも、と思うようになります。まあ実際どうなのかはわかりませんけど。

ちなみに、本の中でよく「ザ・ファット・ダック」というイギリスの高級料理店が出てくるのですが、調べてみたところコースで30,000円くらいするそうでした。人気店のため予約が取りにくい、当然ながら値段が高い、そもそも日本から遠いし行っても英語がわからないなど諸々の敷居が高すぎたので、老後の楽しみにします。楽しめるんでしょうか。「本日のお料理」みたいな紙を見た瞬間辞書を開いて意味を調べ始めるのが目に見えます。

それでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。今日も一日、おつかれさまでした。

タイトル

「おいしさ」の錯覚 最新科学でわかった、美味の真実

著者

チャールズ・スペンス

長谷川圭

発行

株式会社KADOKAWA

発行者

郡司聡

DTP

木蔭屋

装丁・本文デザイン

寺澤圭太郎

ページ

392頁

版と刷

初版

発行年

2018年2月28日

Written by Tatsuyama, Kana
Copyright LagonGlaner and Author

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